恐怖や驚きによって顔色が青ざめることを「色を失う」というが、この作品は世界の崩壊とともに色を失うシーンから始まった。

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プレイ時間は3時間ほどでアクション、パズルともにやさしめ。2Dアクションだが落下死もなく、おそらくゲームオーバーにならない設計と思われるので、誰もが最後まで楽しめる作品だろう。世界観は、人生での辛い体験によって、自分自身の世界に迷い込んでしまった女の子「グリス」の物語。



テキストはほとんどなく芸術性あふれるビジュアルで、世界に色を取り戻す瞬間は言葉にならない感動があった。開発元のNomada Studioはストーリーについても「プレイヤーによって自由に解釈できるようになっている」と言っているのでプレイヤーの数だけ感想があることだろう。ストーリーのキーとなる描写から連想して「筆者の気持ちを考える」のが楽しいゲームだ。


ちなみに連想とは「具体的連想」と「抽象的連想」の2種類に分けられるそうだ。例えば『赤』を見たとき「リンゴ」や「血」などを想起するのが具体的連想、「情熱」や「怒り」を想起するのが抽象的連想を指す。


前者が具体的な色の知覚や記憶との関連が深いのに対して、後者は心理的、情緒的な関連が深い。人の数だけ違う感想が生まれる理由はここにある。


この記事では自分のプレイを振り返り、そして物語のキーとなる部分を考察してまとめてみよう。なのでネタバレについては自己責任で。(あくまで考察であって答え合わせではないのでネタバレでもないと思うけど)。もちろん人それぞれ違う感覚を持っているので正解というものはない。プレイする際にはどうか自分の感覚を大事にしてほしい。


プレイの振り返りは少し長いと思うので、面倒な人は最後のほうのまとめまで飛ばしてもらっても大丈夫。最終的にどんな物語だったと考えたのかが伝われば幸いだ。


主人公はタイトルにもある『Gris(グリス)』と呼ばれる少女。物語の始まりは彼女が石像の手のひらで美しい歌を歌うシーンから始まる。しかしやがて声が出なくなると足元が崩壊して奥深くに落ちていく。

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奈落の底に落ちたグリスは色のない砂漠のような世界で目を覚ます。しばらくさまようとほとんど原型
を失った石像の手の平の上で「」を手に入れる。ここから徐々に世界の色づきが始まっていくのだ。

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そしてエリアを抜けると次は「」を手に入れる。そのときも原型のない石像の手の上だった。その後現れるツタを滑り降りると、徐々に植物が登場するようになり、動物の鳴き声が響き渡るなど命の豊かさを描写する場面が増えてくる。この後、「黒い鳥」と対峙することにもなる。

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なんとか黒い鳥から逃げ切るとまた石像が姿を現す。しかしここで登場する石像は、頭部は欠けているが明らかに女性と分かるほどには原型をとどめていた。「」を手に入れるとやがて雨が降り始め、ここからは水や海が多く登場する。

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海の深くまで潜ると、夜空のような景色に出会う。ここには体全体を保ったままの女性の石像がグリスを待っていた。そして手のひらに乗ったグリスを見つめると燦然と煌めく満月のような景色が現れ、「」を手に入れる。しかしすぐに石像が崩れ落ち、黒い鳥がウナギのような姿に変わり暗い海でグリスに襲いかかる。

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とある動物の助けによって逃げ切った先は色彩豊かな美しい景色が続いていた。様々な色の動植物は生命の豊かさそのものを描写しているように感じることができる。ここでグリスは「声」を手に入れる。「声」は花を咲かせるなど仕掛けを起動するアクションとなる。言い換えれば、グリスは初めて自らの行動で世界に変化をもたらせるようになったと言えるだろう。

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そして最後は世界と変えるほどの大きな声によって石像を修復し物語はエンディングを迎える。世界とはもちろんグリス本人のことである。

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さて、物語を振り返ってみると声の喪失、石像の崩壊から始まり、そして声の獲得、石像の修復によって結末を迎える。ざっくり言ってしまえば「自分を見失ったけど、自分と向き合い、元の自分を取り戻した話」だと思ってる。


ここからは物語にも深く関わる3つのキー「石像」「黒い鳥」「色(赤・緑・青・黄)」を考察する。


まず「石像」について。本作に登場する石像の特徴はすべて髪の長い女性であること、そしてたいてい顔を手で覆っていたり俯いたりしていて悲哀の感情が見て取れる。おそらくはどれもひとりの人物を型取っているのだろう。


最終的に、崩れ落ちた石像が修復されるのは見失った自分を取り戻した描写にほかならない。重要な場面では内なるグリスと共にあるこの女性像はグリスの外側(現実)の姿を表していると思う。

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次に「黒い鳥」について。物語の始まりは声の喪失とともに石像(自分)が崩壊した。そこで声=アイデンティティと捉えてみる。


黒い鳥は主人公の行く手を阻む存在として現れる。鳥は「鳥の歌声」と言われるように声の象徴でもあるし、猛々しい猛禽類ではなく丸みを帯びた小鳥のような輪郭も女性的だ。


つまり、黒い鳥はアイデンティティの具現化であり「人生の辛い経験」と深く関わっている。そしてそれが登場するシーンは自分との戦いでもある、というのが黒い鳥に対する見解だ。黒い鳥は場面によって姿形を変えグリスに「人生の辛い経験」を乗り越えるための試練を与えるのだ。

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そして最後に「色」について。これはハッキリと説明するのがなかなか難しい。色は物語の進行で赤・緑・青・黄の順で手に入れる。光の3原色などではなく、なぜこの4色なのかを考えなければならないだろう。


赤⇔緑、青⇔黄をそれぞれ反対色としている表色系では心理4原色と呼ばれているらしく、それをヒントに考えていくことにしよう。これを前提とすると、赤(青)の意味を考察すれば緑(黄)は反対の意味だと予想ができる。


赤から連想して「血」や「怒り」だと考えれば、緑は「生命」や「豊かさ」といった平和的な言葉が連想できる。緑のエリアでは謎の生命体と一緒に行動するシーンが登場する。そして自分以外の何かと一緒に行動することでグリスの中に「自分とは何か」という思いが巡ったのではないだろうか。黒い鳥、すなわち自分のアイデンティティが立ちはだかるのは謎の生命体と別れた後のことだ。


黒い鳥から逃げ切り、青を手に入れると雨が降る。恐怖に涙している描写のようにも思える。青とはつまり「悲しみ」や「抑鬱」だろうか。あるいは緑エリアで芽生えた植物に水を与えていると考えれば、成長を描いていると解釈することもできる。「悲しみ」の反対語と言えば普通「喜び」だが、ここでは黄は「希望」と捉えたい。グリスは「人生の辛い経験」を乗り越える希望を見つけ世界に大きな声で変化をもたらしたのだ。


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さて、長くなってしまったが考察をまとめてみよう。


『グリスはアイデンティティの崩壊によって自己を見失い、自分自身の世界に迷い込む。そこで生まれた内なるグリスは現実世界のグリスとは異なり、本来は石像と同じ外見をしている。最初は何の感情も持てずにいたが、怒りによって歩みを始める。やがて他人との触れ合いによって落ち着きを取り戻すが、同時に自身を振り返るとアイデンティティであり人生の辛い経験が現れる。暗い過去を振り切り、感情のうねりの中で希望を見つけ出し、それが大きな希望へと育まれ、元の自分を見つけ出した。』


そして現実世界のグリスは内なる世界を抜け出し、きっと前へと進めるはずだろう…というのがプレイを終えて自分なりに感じたストーリーだ。めでたし、めでたし。


人の心は多面体であり一つの感情だけで生きている人間はいない。このゲームの背景のほとんどがビビッドカラーでなくパステルカラーで塗られているのは感情や感覚の境界線の曖昧さを描いているのかもしれない。自分と向き合うことで様々な自分に出会う、それは複雑に絡み合った繊細な感情を紐解く作業でもある。この作品は、最後までグリスというたったひとりの女の子の物語だった。


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<参考文献>
色のしくみ 著:城一夫 新星出版社