【 どんなゲーム❓ 】

価格:¥1,980 言語:公式日本語対応 

ナイト・イン・ザ・ウッズは大学を中退して故郷「ポッサム・スプリング」に戻ってきたメイ(20歳の女の子)の物語。家族や旧友と再会するが、仕事も目標もなく刹那的に過ごしていく。個性豊かなキャラクターが紡ぎ出すドラマが凝縮されていて、キュートなキャラデザとは裏腹に思わず眉をひそめるようなエピソードも登場する。メイはなぜ大学を辞めて故郷に戻ってきたのだろうか。 

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本作は2017年2月にSteamでリリースされ数々の賞を受賞したのち、2019年4月に日本語版がSteamおよびSwichに登場した。キュートなキャラクターたちによる会話がメインのアドベンチャーで会話に選択肢によってイベントが変化する。常に顔がこちらに向いているキャラデザはミッフィーみたい。 


音ゲーやローグライクなどのミニゲームが豊富なので会話に飽きたら自分の部屋に戻ってミニゲームに明け暮れるのもいいだろう。ちなみに音ゲーの曲目はyoutubeにボーカルverが上がってるので気になる人は見る価値あり。 

 
【 ゲームを終えて、考えたこと 】 

 
メイは故郷に戻った翌日から町に出て旧友と再会していき、昔のようにバンド活動したりドライブに行ったりパーティに参加したり、仕事につかず目標もなく刹那的に過ごしていきます。序盤はこうした物語の展開からよくモラトリアムがテーマとして紹介されています。 


 
そもそもモラトリアムってなんだろう?精神医学者・小此木啓吾は「モラトリアム人間」を以下のように定義しています。 

 
①いかなる国家、社会、組織にも強い帰属意識を持つことを回避し、また、これらの組織、集団に対する忠誠を要求されることを嫌う。 
②どんな組織、社会に対しても一時的なかかわりしか持たない。 
③組織、集団よりも自己自身を優先させる。 
④集団の責任のために自己をかけてしまうことをしないで、あくまでも自分そのものを生き延びさせようとする。 

 
そしてモラトリアム人間の形成過程にはアイデンティティの追求が前提となる。つまり、集団に帰属することなく自己を保つには少なからず自己愛(ナルシシズム)が潜んでいる、ということらしい。この場合の「自己愛」とは自己肯定感のこと。 

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さて、メイはどうだろう?彼女に「これでいい」という自己肯定感、心の活力、すなわち自己愛があっただろうか。 


「大学を辞めた理由」も「故郷に戻ってきた理由」もなかなか明かそうとしなかった。母親から「大学で何があったの?」「就職の話なんだけど…」と話題が及ぶと露骨に会話を避けるのはあまりにもありふれた親子の会話ですね。 

 
メイは誰かと意見がぶつかる時「お前はどうしたいんだ?」と聞かれるといつも「わからない…」と答えていました。大学を辞めた理由も故郷に戻ってきた理由も、おそらく自分でもよくわかっていなかったんだと思います。メイには自分と向き合う余裕すら失っていたのではないでしょうか。 

 
人生の主導権をメイ自身が握れなかったのは家庭環境もあったと思えるシーンもありました。母親との会話の中でメイがボロウスキ(名字)家で初めて大学に進学した期待の子だったと明かされます。それもメイが生まれた時から計画を立てていたと。 

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親の愛があったとはいえ、生まれる前から人生のレールが敷かれているのは親のレールであって自分のレールではないでしょう。これは自分の人生じゃないと気付いた瞬間にそのレールは消え去ってしまいます。その時、路頭に迷うか自らの道を作れるかどうかは自己愛が大きく影響します。 


作中に存在する『森』とは彼女の心の暗喩で「あたし、森に行ってくるわ」と決心するシーンは自分自身に向き合うことを決めた重要なシーンです。暗い過去を振り切って前に進むためには自分自身に向き合うしかありません。 


メイは他人とのかかわりを通してたくさん泣いてきたし、ずっと目をそらしてきた自分と向き合って吐き気がするほどの自己嫌悪に陥るシーンがいくつも登場します。物語の終盤に「わたしは「普通」になりたかった。」と言っていたのが、彼女の飾りのない本音だったんだと思います。 

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ナイト・イン・ザ・ウッズは、人生の路頭に迷ってしまったメイが帰る場所を求めて故郷に戻り、そして自己愛を手に入れるまでの物語だったのではないでしょうか。 


キュートなキャラクターが作り出す物語はあまりに現実そのものでギャップがすごかったです。数々の賞を受賞したというのもうなずけますね。様々な人生が語られるポッサム・スプリングの魅力を味わってほしい作品でした。 

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<参考文献>
モラトリアム社会のナルシスたち 小此木啓吾/朝日出版社